大日岳遭難事件で書類送検された山本一夫・高村真司両君をご支援いただいている皆様へ
両君を支援する会 代表幹事 斎藤惇生
2000年3月5日、北アルプスの大日岳山頂付近で文部科学省登山研修所が主催した冬山リーダ研修会の一行が雪庇崩落事故に遭い、ふたりの研修生の尊い生命が失われました。この遭難事故の責任を問われた主任講師の山本一夫君、講師の高村真司君が書類送検されました。わたしたちは直ちに両君を支援する会を組織して活動を始めました。両君を起訴しないことを求める署名には7,927名(昨年8月1日現在)の方のご協力をいただき、弁護士を通じて富山地検に提出しました。募金は延べ811名の方から7,419,550円のご支援をいただき、両君の弁護活動に充てさせていただいております。ご協力に深く感謝し、あらためて厚くお礼申し上げます。
この程、両君の弁護人である三野岳彦、武田信裕両弁護士から富山地検宛意見書を1月19日付で提出したという知らせがありました。ご支援いただいた皆さまにこれまでの事件の経過をお知らせするために、意見のあらましをお伝えし、現状報告といたします。
弁護人意見書は大要、次のように述べています。
『山本一夫・高村真司両君を「嫌疑なしとして不起訴処分」の決定を求める。その理由は
第1に、両君には刑事責任を問えるような過失はない。崩落した雪庇は類例を見ないもので、その規模、「しもざらめ」層の形成などは予見不可能であった。ルートのとり方については山頂付近の大岩の存在、山頂からの剣岳の見え方、バックベアリング法の活用、大日岳と大日小屋及び竜王岳の位置関係の考慮あるいはゾンデ棒の活用の有効性など考えられる事項が仔細に検討されたにもかかわらず、すべての証拠を徴しても事故は予見不可能であったし、結果の回避義務違反はなかったことが明らかである。
第2に山本・高村両君をはじめ講師全員、関係者はひとしくこの事故を心から悔やみ、深い悲しみを抱いており、尊い生命が失われたことに対して、国が冬山研修会の主催者としてご遺族に対して、十分な補償をすることを求めている。しかし、十分な補償をすることとふたりの講師に刑事責任を負わせることは峻別して考えるべきことである。
第3に仮に不起訴処分が出されても、処分の妥当性を問う検察審査会への申立が行われるかどうかはわからない。本件は予見不可能な大規模な雪庇の崩落によって起こったもので、事実関係において疑問をはさむ余地はなく、争いはない。事故は講師たちの過失によって起こったのではないことをはっきりさせておくことが必要である。
最後に文部科学省登山研修所が企画、実施した冬山研修会の事故責任を研修所が依頼した講師に課すということになると登山界は大きな衝撃を受け、研修会の存続が危ぶまれる。健全なスポーツとして登山を育成するという国の趣旨に背くことになりかねない。失われた尊い生命を無駄にすることなく、事故の教訓を生かし、人類の大切な財産である登山の正しい発展を促すためにもあいまいなものでない、明確な結論を求める。』
この弁護人意見は山本・高村両君を支援するわれわれの立場と完全に一致し、われわれの主張を余すところなく表現しています。われわれはこの意見書を心から支持します。
意見書が提出された日付からも窺えるように両君の処分は程なく決定されようとしています。われわれは両君に対して「嫌疑なし」よって「不起訴とする」という処分がくだされることを確信をもって、鶴首して待ち望んでいますが、なお油断があってはなりません。万一の事態に備えて十分な準備を怠らないよう努める必要があると考えます。どうか一層のご支援を賜りますようお願いいたします。
(2004.2.6)