黒部川上ノ廊下横断
【山域】北アルプス
【場所】富山県、岐阜県、長野県
【日時】2008年5月3日(土)~5月6日(火)
【コース】
5月3日 室堂-一ノ越-御山谷1800m-中ノ谷-刈安峠-五色が原-ヌクイ谷
5月4日 ヌクイ谷-越中沢岳東コル-廊下沢-黒部川上の廊下-中ノタル沢左岸尾根-薬師見平
5月5日 薬師見平-赤牛岳-温泉沢左俣-高天原-岩苔小谷2250m
5月6日 岩苔小谷2250m-岩苔乗越-黒部川源流-三俣山荘-樅沢2100m-双六小屋-双六沢-大ノマ乗越-新穂高温泉
【メンバー】高尾(マッコー)、芝田(山形大WV OB)、 木村(オジン)、山森(ボンタ)、田中(大阪市大山岳部OB) 計5名
【装備】高尾:HAVOC163cm,TLT,スカルパ
芝田(山形大WV OB):HAVOC163cm,TLT,ダイナフィット
木村(オジン):NUNYO、テレマーク、スカルパ
山森(ボンタ):ディナスター、ディアミール、スカルパ
田中(大阪市大山岳部OB):BOODOO、TLT、ガルモント
距離:43km、登り:4700m、滑降:6000m、
最大滑降:御山谷 850m、最大傾斜:貫井谷 平均29度
12年前に御山谷⇒中ノ谷⇒ヌクイ谷⇒廊下沢⇒スゴ沢⇒薬師沢⇒神岡新道に行ったメンバーを中心に、今回は薬師見平で幕営する計画を実行しました。12年前から気に掛かり、2年前の夏に上の廊下をこのメンバーで遡行したときに具体化し、今回実現できました。予想に違わず素晴らしいルートでした。
○ 黒部川の渡渉は最初から覚悟して沢靴を持って行きました。一旦中州まで渡り、そこからが激流の中をかなり長い時間かかって対岸へ渡り、とても冷たかったです。
○ 5日の午後からの悪天にはまいってしまい、途中で林の中でビバークせざるをえませんでした。
○ 6日の最終日はかなりの距離とアップダウンを残したので、心配でしたがよくみんながんばりました。朝出発時に1人のカーボンストックが折れて、とても短くなり片方のストックでこなしました。ストックの途中に氷がつまり、それで折れたようです。
○ 装備
テントはエスパースの4-5人用に5人、
ピッケルは全員で一本だけ。
スキーはビンディングをTLTにして軽さに努めました。
5人で3泊でガスボンベ大1、中1のみで済ませました。
食料は徹底した軽量化で、α米は初日の夜の一回だけ。あとはすべて麺類(乾麺)でした。2分で茹で上がる乾麺のスパゲティーもあり重宝しました。
初日でも重さは15kg-17kgの範囲だと思います。
アイゼンは持っていきましたが、結局は一度も行わずほとんどをシールで登りました。
5月3日(土) 快晴
室堂09:20-10:30一ノ越11:00-11:40標高1800m11:55-12:30標高2000mコル12:50-13:00中ノ谷13:15-13:55刈安峠14:10-16:00標高2350m16:10-16:30貫井谷 テント泊20:00就寝
室堂は観光客や登山客で相変わらずごった返している。好天が続く予報なのでゆっくり準備し、一ノ越へ向けて出発した。途中で今年カナダへ一緒に行った後藤さんのパーティーに偶然出会った。お互いの安全登山を誓った。
一ノ越から御山谷へ滑り出す。思ったより人がいない。シュプールもわずかだ。雪は引っ掛かるようであまり良くない。重荷なので慎重にピッチを刻みながら滑る。登り返す目標の右岸尾根の「窓」(コル)は晴天ではっきり分かる。
標高1800mで小さな枝谷から右岸尾根に登る。低くなったコルを目指す。窓からは中ノ谷へ向かって滑り降りた。出だしは雪庇があり小さく飛び降りなければならない。雪は良く、傾斜も急で気持ちのよい滑りが楽しめた。数日前と思われるシュプールがあり、KUAC現役2名のものに違いない。
滑り降りたところから正面の急斜面を登って刈安峠に出た。急斜面にうまくルートを取りシールで登りきった。
刈安峠からは尾根が細く急になりシールで登るのは大変になる。しかし、ここもすべてシールで登りきった。登るにつれ樹林は低く少なくなり、尾根が広くなってきて平原となった。五色が原の東端に出たのだ。
南のヌクイ谷へドロップインするのだが、その地点の特定が難しい。周りは平原で下降地点が見通せない。手前(東)だと崖、行き過ぎる(西)と急斜面になっている。以前ここでドロップインのポイントを間違えて、大変な事故になった失敗をしているので緊張した。対岸の越中沢山の東コルとの位置で見当をつけ滑り込む。
急斜面であるが適度に雪が緩んでいて快適な連続ターンで滑り降りた。大斜面をスピードを出して一気に滑り降りた。滑降ルート取りはベストであった。ヌクイ谷の底で幕営した。
5月4日(日) 快晴のち曇り
5/4起床04:30-出発07:15-09:10標高2365mコル09:45-廊下沢-10:10黒部川本流-11:10右岸へ渡渉12:00-13:45標高2000m14:00-14:40薬師平 テント泊20:00就寝
越中沢山の東のコルを目指してシールで急斜面を登る。小さな沢から取り付き、大斜面を大きなジグザグで登っていく。朝は雪が硬くクトーを使いゆっくり登っていく。
コルに登りきると反対側は黒部川まで見通せた。コルから廊下沢はまっすぐ黒部川へ流れ込んでいる。最初は急な広い斜面。途中で狭くなりU字状の沢となる。両側からの落石が多い。
廊下沢の滑りも豪快で痛快であった。雪は適度に緩み、大斜面に思い通りにシュプールが刻めた。大き過ぎて、どう滑ればいいのか迷うほどだった。ロートのようにすぼまったU字になった下部は、一転して落石を避けながらの緊張する滑りとなった。
黒部川の出合まで滑り込むと黒部川はドウドウと流れていた。雪解けで結構水量があり、そう簡単に渡れないようだ。今回はスノーブリッジを当てにせず、渡渉を覚悟で準備してきた。合流点から下流は可能性がなさそうなので、スゴ沢出合の上流の方へ行ってみる。
雪の中洲があり、その斜め上流の対岸は簡単に上がれそうだ。兼用靴を脱ぎ、沢靴、スニーカー、わら草履などに履き替えてスキーを担いでストックを頼りに1人ずつ渡る。まずは中洲までだがこれは流れも緩やかで深さも脛くらいであった。中洲の上流側の先端から対岸までが核心である。膝下の深さだが流れが強く、押し流されそうだ。何とか踏ん張るが、水が冷たく感覚が無くなってくる。何とか全員無事に対岸に渡り、大休止して足を拭いて暖める。
シールで上流側へ河原を歩き、中ノタル沢の右岸の斜面を登る。急斜面だが何とかジグザグを切ってシールで登りきった。右へトラバースして小さなルンゼを詰めた。急斜面が続き気の抜けないところだ。沢を詰めあげると傾斜は落ち、広い斜面となる。しばらく行くと念願の薬師見平に到着した。
一段高い、まっ平らの台地をテントサイトにした。木々がまばらで低く、さえぎるものがない。薬師が正面に「どーん」とそびえている。こんなに大きな山だったのかと再認識する。薬師が持ついろいろなカールが横に並んで壮観です。金作谷はカールから一気に黒部川へ落ちている。すぐ近くに熊がいてこちらに驚いて逃げ去った。
写真を撮ったり、お酒を飲んだり夕方までテントの外でゆっくり薬師を眺めた。
5月5日(月)曇りのち雨
起床03:05-出発05:25-シール装着05:40-10:05赤牛岳10:30-温泉沢12:00-高天原-14:00 標高2250m樹林の中 テント泊
朝からどんより曇っている。雨の支度をして出発。赤牛の登りは急斜面から始まる。シールが濡れて接着力が落ちている。テープで留めてだまし、だまし登っていく。急斜面ではジグザグ登りも厳しくなり、スキーを担いでハイマツを登るもの、雪面を登るもの、最後までシールで行くものと分かれた。
急斜面が終わるとピークに出る。そこからはシールで赤牛まで縦走できた。赤牛に着くころから天気は雨に変わる。赤牛ではホワイトアウトで何も見えなかった。
赤牛からシールを外し、滑降に移った。尾根沿いに滑り、温泉沢左俣の入り口を探す。赤牛沢に入らないようにルートファインディングするが難しい。途中尾根に雪がなくなり登りなおしたりして、ホワイトアウトの中でルートを探す。一瞬視界が利いたのでうまく温泉沢に入れた。
温泉沢左俣は急斜面であるが広くて滑りやすい。少し下るとガスもなくなり、雪崩の危険もなくどんどん飛ばす。右俣との合流を過ぎるころからさらに天気は悪くなり、雨が強くなった。開けて平らになったところまで滑って、シールを付けて高天原を目指す。
林の中の平原を進む。真新しいスキーのトレースがある。このころから風が出てきた。高天原の小屋の横を過ぎ、岩苔小谷に合流した後、沢を詰めていく。このあたりは沢が割れていて水が途中で汲めた。
風が非常に強くなって雨も横殴りになってきた。これでは乗越まで行ってもテントが張れないので、標高2250mの右岸に見えた林の中で風を避けてテントを張った。明日の行動がかなり長くなるが仕方ない。しっかり整地して、ブロックを積んで出来る限りいいテントサイトを作った。雨風は弱まることはなく夜遅くまで降り続いている。
5月6日(火)快晴
起床03:05-出発05:40-07:20岩苔谷コル-黒部川源流-三俣山荘裏コル09:00-09:20標高2100m水補給09:40-12:30双六小屋-13:00シール13:10-14:05大ノマ乗越14:45-15:50ワサビ平小屋-16:05スキー終了16:20-17:30新穂高温泉バス停
雨は夜中に雪に変わったがすぐに止み、朝には快晴となった。冷え込んだため、テントは凍りついた。シールはスキーに張ったままであったが、凍ってはいたが接着は問題なかった。
出発するときテントサイトから沢に下りるとき、オジンのストックが一本折れた。ジョイントに氷が着いていたらしい。
シールとクトーで快調に岩苔乗越を目指し登る。乗越の直下は雪が硬く緊張したが、階段登高でしのいだ。
岩苔乗越からの景色を楽しむ間もなく先を急ぐ。黒部川源流へ滑り込んだ。クラストしてエッジが取られる。傾斜はないので新雪部分で曲がるようにして滑り降り、最後は斜滑降で三俣山荘のすぐ下の小さな沢に滑り込んだ。
シールで沢をつめ稜線に上がり、三俣山荘裏辺りから樅沢へ滑り込んだ。雪庇を右に避けて急斜面をどんどん滑り降りる。見上げると小屋から三俣蓮華に登る三人が見えた。標高2100mまで滑ると沢が合流し雪が割れているところがあり水が汲めた。
シールを付けて双六小屋を目指して出発。小さな尾根に上がり、尾根を詰めていく。途中に急斜面が出て緊張したが、シールで登りあげて大斜滑降で双六小屋へ滑り込んだ。
双六小屋は営業しておらず、人気がなかった。双六沢は緩やかで、何の心配もない。大ノマ乗越の登り返し地点までビデオなど撮りながら滑った。
大ノマ乗越はシールで登ったが、急なため結構苦労した。乗越からは槍・穂高がパノラマで見え気持ちよかった。
大休止の後、最後の滑りを楽しんだ。途中でデブリがいくつも出てきて、乗り越えるのが大変であったが、時間もないのでスキーで急いだ。ワサビ平小屋を過ぎ、笠新道の辺りまで滑りスキーは終わりとしたが、結果的にはその後もスキーはかなり下まで使えた。スキーの方が都合が良いところもあった。
今朝の出発のときには到着は日没かと覚悟していたが、明るいうちに新穂高温泉に到着することができ、バスとタクシーで松本に出てその日のうちに全員が帰宅できた。
今回の山行は計画を練りに練って、みんなの気力、これまでの経験が生かせて、とても充実したものになった。
以上