インカ道の高度順応:アコンカグアに向けて

安田隆彦(58年入部)

 2010年11月22日から12月21日まで アコンカグアに隊長 安仁屋政武(63年入部、66歳)彼の所属するスキークラブ ラ・ランドネのメンバー田原健司(65歳)村上静志(61歳)と共に4名で挑戦しました。風によりテントを破壊されCamp Ⅰより撤退してきましたが、思い出深いひと月となりました。

インカ道の高度順応 同山は地球の反対側にあるので時差が大きく、その対策が 高度順応と共に大切な要素となる。2つの問題を同時に解決するため事前にクスコからチチカカ湖沿いに1週間滞在し3500m~4000mの高度に体を慣らすこととした。インカ文明の中心地クスコからラパスまでの道は 当時の幹線道路で 沿線には遺跡が多数点在する。それらを見ながら チチカカ湖で葦のボートを漕ぎ、湖畔の景色を楽しみながらラパスまで旅した。観光している間に高度順応は自然に出来たようで 山に入ってからメンバーの体調は万全であった。

登山者健康管理 高山病予防対策としてAsociacion Andina de Medicos para la Altura ( aampa.org) が行っている活動は特筆に価する。ドクターを2名ずつ 入山道の中間点 コンフルエンシアとベースキャンプ地のプラザデムラスに配置し 24時間対応できるようにしている。登山者は両基地にてドクターの問診、血圧、SpO2、心音検査を受けねばならない。大丈夫だと入山許可証の所定の欄にDr.がサインをする。聞けばSpO2がコンフルエンシアでは85以下だとさらに上に登る許可を出さないとのこと(プラザデムラスでの基準は聞き忘れた)。最盛期にCamp Ⅰとして使用されるニドデコンドレスにもドクターを配備する。アコンカグアでは凍傷にやられる人が多いのだが、必要ならドクターの指示でいつでもヘリコプターで緊急搬出できる体制が整っている。数年前から実行されて定着している。

空飛ぶ肥溜め トイレ対策は万全になっている。プラザデムラスで基地に到着した登録を済ませると番号付のプラスチック袋を渡され、これより上部での大便は袋に入れて事務所まで持ち帰るよう指示される。違反者は$500の罰金。同基地にはトイレが多数設置され落とし込みだがドラム缶に落とすようになっている。満杯になると上屋を倒し ドラム缶を取り出してヘリコプターで下まで搬出している。まさに空飛ぶ肥溜。すでに10年ほど前から実行されている。おかげで基地内は不快なものが散乱せず安心して周りを歩ける。4日間強風でベースキャンプで停滞していたが、風が収まってヘリコプターが飛び始めて最初にしたのが肥溜めの搬出だった。ごみの持ち帰りにも厳罰で対処される。番号付のプラスチック袋を渡され 登山終了時には所定の場所に登山中に発生したごみを持ってゆかないと$200の罰金。

老人性健忘症 旅行中の昼食時 脇に置いた貴重品袋をそのまま放置してきた。アコンカグアは風対策が大切で風の風速を簡単に測定できるものを購入したばかりで一度も使わなかった。それに毎日必要な薬を入れてあり 合わせてなくしてしまった。その後もチョッキを忘れたり、一番ひどいのはテントマットを思い違いで自宅にきちんと置いてきてしまったこと。朝何かをどこかにしまうと 夕刻にはそのしまい先を忘れて持ち物全部ひっくり返して探しまくるとか、物探しの時間にかなり多くの時間を費やしてしまった。今後は持ち物を出来るだけ減らし、探し物の時間を短縮する対策を考えねばならない。

経年劣化 ベースキャンプに使用したダンロップの6-7人用、前進キャンプに使用したダンロップ3-4人用、アライ3-4人用の3張りとも風で破損を受けた。ダンロップ製は2張りとも20年前購入のテント。購入直後はパタゴニアにおいて小石が飛び、地面に這い蹲らないと前進できないような烈風にも耐え抜いた優秀なテントであった。しかし年とともに強度が落ちていたのだろう。経年劣化に関してはスキー靴やビンディングのことは話題にしたにもかかわらず、テントにも適合することに思いのいたらなかったことが今回敗退の一要因だったと思われる。アライテントは新しいものだがアコンカグアの気象に耐えられる物ではなかったようだ。

気象予報 プラザデムラスのインカ社テントにはインターネットを有料で使用できるようになっているが 気象予報を見るパソコンはいつでも無料で閲覧できる。サイト

http://www.snow-forecast.com/resorts/Aconcagua/6day/bot

日本で山岳気象予報は当たらないことも多いので ましてアルゼンチンでは当てにならないだろうとたかをくくっていた。しかし短い経験ながら上記サイトの予報はきわめて正確に当たっていることに気付く。ほとんど連日晴ればかりだが、行動できるかどうかは風が強くなくて歩けるかどうかにかかっている。その大切な風速予報がきわめて正確になされていると思われた。

下痢対策 過去高山登攀実績で3500m以上になると高山病のひとつの症状 下痢が始まるのが私の問題点であった。今回はその対策に薬を5段階にわけ 下痢が始まってから飲むのではなく 高度に応じて計画的に事前に飲むようにした。3500mから最初の弱い薬の服用を始め、5400mでは3段階目の強い薬まで服用して対処した。お陰で一度も下痢することなく、いざという時のために持参した大人のオシメや余分なパンツが無駄になったことは幸いだった。

ワインと登山の町メンドーサ 登山基地となるメンドーサはポプラの大木の茂るきれいな町。気温は35度ほどあるのだが湿度がなくて快適。 木陰に張り出した野外レストランでおいしい肉とワイン、サラダを格安料金(合わせて千二、三百円)でたらふく楽しみながら 道行く美人を愛でていると極楽気分であった。

以下に行動表を添付する。

高度順応インカ道

ノルマルルート図

インカ道沿いの遺跡ラフチ インカ穀物倉庫群
チチカカ湖にて葦船を漕ぐ筆者 左より安田、安仁屋、田原、村上_肉の食べ放題屋にて
登山口_オルコネス湖よりアコンカグア南壁を見る プラザデムラス基地_全景
プラザデムラスにて_ドクターチェック 空飛ぶ肥溜め
山頂の傘雲_悪天候の前兆 ビエントブランコ(白い風)と呼ばれている 夕日のアコンカグア西壁
メンドーサ街角

以上。