五竜GV
山崎洋介
所属している山岳会(関東)が五龍で合宿をすることになった。後立山なら夜行バスを使えば関西からも参加可能である。早速エントリーした。もう数年会っていないメンバーもいるし、名前しか知らないメンバーも多いので楽しみだ。計画では奥遠見に定着して、初日に雪訓、二日目に岩稜とシラタケ沢スキーの分散とある。若手実力派のIを誘ってGV班を立ち上げた。
GVにトライするにあたって問題が一つ。シラタケ沢下部にあって長く厳しいGVは当然の事ながら時間がかかる。最近のネット情報でもほとんどが一泊二日だ。合宿は土、日で、他はみな日曜日のうちに帰京する計画だ。日程に関しては休暇を取るにしても、交通手段を考えると日曜日のうちに下山したい。リーダーと相談して15時まではテン場に待っていてもらうことにした。
前夜の宴会も早々に切り上げ、夜明けと共に取りつく算段で二時半起床。リヒトをたよりに昨日つけておいたトレースを下降しシラタケ沢に降りる。二日前の降雪の影響か、沢床は膝上までのもなか雪。ピッチが上がらない。GVI・GV中間稜の末端から右岸斜面をトラバースし、夜明けにやや遅れてGV末端に取りついた。大系等の記録ではC沢よりの支尾根から入っているが、今回はいちばんD沢よりの尾根に取りつく。雪崩で表層が剥離した急斜面を越えて、ブッシュを絡んで支稜に立つ。相変わらずもなか雪であるが、四月ともなればせいぜい膝程度なのがありがたい。両側が切れ落ちた雪稜をぐいぐい登っていくとD沢側からの小尾根のジャンクションに雪壁。初めてザイルを出し、わずかに露出したブッシュづたいにのっこす。D沢に向けて急角度で切れ落ちている斜面はなるべく見ない。そこを越えるとしばらくは快適な雪稜が続く。まだ午前も早い時間。登攀開始がやや遅くなってしまったが、この調子なら三時に間に合うかもしれない。
今回のパートナーI は東京の某大学のM1。フリーも上手いし雪稜も安定して登ってくれる頼もしい男である。「こいつ、自分の子供でもおかしくない歳なんだよな」などと埒のないことを思う。その気になればまだ30年は登れるI が羨ましくもある。
GII を登る仲間とコールをかわしつつ雪を踏みしめていく。午前もまだかなり早い時間に雪稜を詰めることが出来た。奥壁直前の小ピークは噂に違わずでかいキノコ雪になっている。ここはI がわずかに露出していた岩を利用して左の凹角に入り、巧みにキノコ雪を越えてくれた。コルに出ると正面には奥壁。上部ほど傾斜が増していく姿には圧倒されるばかり。最上部は多分垂直。しかも温度が上がっているので、左右のガリーから雪崩が多発している。唯一の解はコルからの直上だろう。雪壁を抱くように中腹まで登り、氷に埋もれたブッシュのところでザイルをつける。いきなり氷に通したシュリンゲにA0するというトリッキーなスタート。さらに5m上でブッシュピンを取れたが、以降は気休めにもならないスノーバーのみ。ピッケルにもたよれないザラメ雪の急雪壁が頭上にそびえている。抜き手で穿った穴に、「崩れないでくれ」と念じつつ乗り込むような登高を10mもくり返し、最後の垂直部を突破して安全地帯にたどり着いた時には喉に鉄の味がするほど困憊していた。主稜線到達12:10。これまでとは比べものにならないほど安定した主稜線を辿り、五龍山荘を経て泊地に着いたのは14:30。