頭巾山・長老ヶ岳積雪期縦走

(2014年3月10日~14日)

阪本公一

 京都府南丹市美山町と綾部市及び福井県名田庄村にまたがる標高871mの頭巾山(ときんざん)から、京都府南丹市美山町と京丹波町の堺にある長老ヶ岳(916.9m)へ、2014年3月10日から実働4日、予備2日、最終下山日3月15日の予定で、積雪期縦走に出かけた。


 還暦になった翌年の2001年から、京大山岳部の同期だった堀内潭さんの賛同を得て京都北山および京都・福井・滋賀の主な県境尾根の積雪期縦走に取り組み始めた。2007年からは、同年配ながら5.11の優秀なクライマーであり且つ体力抜群の岡部光彦さんにも参加して貰い、低山樹林の積雪期縦走を毎年継続して実行してきた。
 昨年までに、この山域の主たる稜線や尾根の殆どを積雪期にトレースしてきたが、頭巾山と長老ヶ岳の稜線の積雪期縦走だけが、私達の最後の課題として残っていた。
 長老ヶ岳には無雪期に一度登っており、2007年2月の第2回厳冬期若丹尾根縦走の時に八ヶ峰から頭巾山を経て頭巾山の南にあるP835迄縦走を行い、その前年秋の無雪期にも同ルートを偵察したが、P835から長老ヶ岳までの長い稜線は私達には未知の尾根であった。
 小浜山の会の木本茂さんに、頭巾山から長老ヶ岳への積雪期縦走の記録がないか問い合わせたところ、同会では縦走の記録は全くないとの回答であった。ただ、無雪期に頭巾山から長老ヶ岳へ一日で縦走した福知山山の会の記録が、インターネットに掲載されていると教えて戴いた。早速、福知山山の会に問い合わせたところ、2010年の4月17日に同会の精鋭3名が、綾部市側から頭巾山に登り長老ヶ岳まで一日で縦走して仏主へ下山した記録があり、そのメンバーだった塩見忠嗣さんおよび事務局の澤田一正さんから、詳細な状況報告と共に、親切なアドバイスも頂戴した。
 昨年秋に、上林川の睦寄町から古屋まで車で入り、エスケープ・ルートとして使用しようと考えている洞峠まで登り、天狗畑(848.3m)の手前まで偵察。更に第2回目の偵察として、一日目は仏主からの林道終点から地蔵(898.9m)の北の稜線に上がって地蔵杉まで登り、翌日には長老ヶ岳から地蔵杉を縦走して775mコルの南の肩から林道終点へ降りて、仏主へ降りるもう一つのエスケープ・ルートを偵察した。三度目の偵察は、福居村から横尾峠までのアプローチ・ルートを確認する為に、日帰りハイキングを行った。
 偵察の結果、地蔵杉(898.9m)とP768の間にある灌木混じりの痩せた岩尾根の約120~130m程の通過が、重荷を担いでの積雪期縦走の最大のキーポイントになるのではと思われた。
 今回のメンバーは、堀内潭さん(73歳)、2007年から毎年同行いただいている岡部光彦さん(72歳)と私(73歳)の3名の老人パーテイとなり、3人の都合の合う日程で計画をつくった。

3月10日(月):風雪
JRバス 京都駅/7:50 - 北野白梅町/8:15 - 周山/9:20。
周山タクシー 周山/10:00 - 福居村/10:30。
福居村/10:45 - 横尾峠/14:25 - P783東峰を越えたコル/15:40 (幕営)。
 JRバスに京都駅から岡部さんが乗車し、堀内さんと私は北野白梅町から乗車した。バスが来る直前に、約20kgの荷物をヨイショと担ごうとしたら、ザックの左側の背負い手を 支えている太いナイロン・テープがプツンと切れてしまった。取りあえずバスに乗り、周山のJRバス待合室にて、持参していた塩ビ・コーテイングの針金、針と糸、更に岡部さんが持参しておられた丈夫なナイロン布バンドで何とか修理をして、山行が出来るようにした。
 バス停留所の隣の周山タクシーで、鶴ヶ丘経由福居の村落へ。タクシー代は、少し割り引きして貰って¥10,000であった。福居村の手前より積雪が急速に増え、除雪をしていない車道をなんとか車で福居村落へ。頭巾山の地図を書いた案内版の直ぐ先の橋のむこうが福居村だ。橋を渡ると、道は左右にわかれる。頭巾山への登り口へは、右の道を進む。風雪の舞う福居村でワカンをつけて、林道を400~500m歩くと、お地蔵さんがあり、横尾峠への標識が立っている。右手の橋を渡った対岸に村の集会場のような小さな平屋の家屋があり、横尾峠への登山道は集会場の前を通って小さな谷に入る。谷沿いに20m程行くと、橋のない小谷を右に渡って、右側の雪の斜面を強引に登ると、登山道のトラバース道がようやく出てくる。
 横尾峠へはP718の南尾根を登るのだが、P645迄はかなり急登だ。樹林の中を夏道はうまくジグザクにつけてあり、割と歩きやすい。昨秋に私達がつけた赤布テープもついており、迷うことなくP645へ。このあたりから尾根は少し広くなり、傾斜も緩くなる。積雪は1~1.5m位だろうか。膝ぐらいのラッセルを、交代しながら登る。

粉雪舞う福居村
横尾峠への登り
風雪の中の休憩
地吹雪のなかをラッセル


 横尾峠の手前にお地蔵さんがあるのだが、積雪で埋没して隠れてしまっていた。横尾峠に上がると、日本海からの強い風がまともに吹きつける。峠からは割と広い樹林の尾根になっていて、気持ちの良い稜線だ。日本海から吹き付ける北風の為、稜線の南側には結構大きな雪庇がでている。もう午後3時も過ぎたので、P783東峰を越えたコルの稜線の南側の平らな窪地が、強風を避けられそうなので、樹木の間を整地して幕営する事にした。日本海からの強風が稜線近辺の木々にぶつかり、ごうごうと音を立てているが、稜線の南側の下にある我々のテントは全く風の影響を受けず, 快適な幕営地であった。

3月11日(火):快晴
起床/4:20 - CS/6:35 - P738西峰/7:30 - 頭巾山/8:40~9:30 -  P835/10:35 -P853/11:27~11:45 - P801/12:15 - P794/13:25 - 天狗畑(848.3)/14:33 - 洞峠手前のコル/16:15 (幕営)。
 CS出発前の6時半頃は、朝日が輝きだし、快晴の素晴らしい景観であった。雪はクラストしており、広い尾根を快調に歩きP738西峰を越える。正面のピラミダルな頭巾山の山容がなかなか格好良い。頭巾山ピークの下のお地蔵さんは、雪で埋まっていた。最後の急坂を登ると、頭巾山頂上にある祠が目に飛び込んできた。強風の為か祠の周辺の雪は吹き飛んでいた。祠の南下にある避難小屋は、完全に雪に埋没。頭巾山から望む日本海の眺めは素晴らしい。

P738東峰CSからの朝焼け P738西峰近くの稜線
快晴のもとP738西峰ヘ 頭巾山
頭巾山頂上直下 頭巾山頂上の祠


 頭巾山からP835への稜線の下りは、相当きつい傾斜になっている。2007年2月は雪が少なく、急傾斜の灌木にザックをとられ、大変歩きづらかった。今回は1.5m以上の雪で灌木は殆ど埋まっている。が、灌木の枝の空間に出来たゴジラ落としに落ち込んで急傾斜の雪面で転倒する恐れが十分あるので、8mm x 40mのナイロン・ロープを使用して、2ピッチを慎重に下降した。阪本がトップでおりたが、やはり2度ゴジラ落としに落ち込んだが、ロープのお陰で転倒せずにすんだ。
 頭巾山から急坂を降りきったコルからP835への稜線も、やはり傾斜もきつく、ラッセルがあって非常にしんどい登りであった。P835からP853は見事な山毛欅林の、広く明るい気持ちの良い稜線。P801あたりから杉の植林が現れだし、P794近辺迄は樹齢40~50年ではないかと思われる立派な杉の大木が立ち並んでいた。P794を越えると、突然杉の木がなくなり、なんの変哲もない天狗畑(848.3)のピーク。天狗畑からは単調な同じよう景色の樹林の尾根が続く。洞峠までは、未だかなり時間がかかりそうなので、4時半に洞峠手前のコルに幕営する事にした。高原状の広々としたコルの一段上のテラスに幕営した。西側が、濃い灌木帯になっていて、日本海からの風は完全にブロック出来そうだった。今日は、10時間の結構疲れるラッセルの1日であった。

3月11日CS

3月12日(水):晴れ
起床/4:30 - CS/6:50 - 洞峠/7:33 - P723/8:04 - P775/10:02 - 地蔵杉(898.9)/11:01~11:20 -P768/15:12 - P752/15:52 - P752を南へ降りたコル/16:08 (幕営)。
 天気予報では今日も天候は良さそうなので、出来れば仏主峠まで足をのばしておきたい。CSからP723への広い稜線の登りを、ラッセルする。P723からだだっ広い稜線を下ってコルにでる。稜線から少し西に外れた地点に、852mと1/25,000地図に記載されたピークがある。その直ぐ東の主稜線上に、標高記載のないピーク(約800m位か)があり、P723の南のコルからは、結構苦しい登りのラッセルであった。775と記載されたコルの少し南の肩から、西側の林道終点まで降りている小さな支尾根を、昨秋2度登下降した。この支尾根を今回の縦走のエスケープ・ルートとして、使用しようと考えていた。
 775のコルからは、地蔵杉(898.9)までの厳しい登りのラッセル。堀内さん、岡部さんは、息も切らさず膝までのラッセルを軽々と登っていく。地蔵杉のピークから、広い尾根が左手の東側に伸びている。昨秋の偵察時に間違ってこの東側の尾根を降りてしまった失敗を思いだし、地蔵杉の頂上より南に20m程下った地点から西側に急傾斜で降りる主稜線への正しいルートをとる。
 横尾峠からつづく主稜線には、「美山トレイル」と書いたオレンジ色のポリプロ・テープが要所の立木につけられており、大きな助けになった。この標識テープがついてなければ、何度かは道迷いのトラブルにおちいったであろう。

洞峠 地蔵杉をめざして


 地蔵杉のピークから主稜線はかなり急傾斜の雪面になっており、一歩一歩慎重にステップをつくって降りた。コルの手前から痩せた岩稜が出てくるが、右手にまいてコルにでた。コルからは、約120~130mもある灌木混じりの痩せた岩尾根がつづき、今回の縦走のキーポイントだ。
 岩登りの得意な岡部さんにトップを頼んで、コルからロープをつけて岩尾根を登る。最初の1ピッチ目は、コルからは約15mほどリッジを登り、少し左へ岩稜をトラバースしながら岩頭をまいて雪の稜線にでて、灌木でビレー。
 2ピッチ目は、岩稜の上に積もった狭い雪稜の上を、バランスをとりながら歩き、最後は岩頭の東側を巻いて、次の小さなコルに降りて、荷物を担いだまま狭いスタンスに立って灌木で確保。
 3ピッチ目は、細い夏道は東側をトラバースしているが、東側も西側も切れ落ちていて、雪の積もった今はとても使えない。雪のかむった岩稜をまっすぐに岡部さんのリードで登る。灌木混じりの岩稜に雪が積もっているので、非常に不安定だ。岡部さん、掘内さんが登った後、私が同じステップをフォローしたが、20m程登ったところで、灌木の枝の空間に出来た穴に見事に落ち込んでしまった。腰のあたりまで落ち込み、ザックを後ろに見事にひっくりかえってしまった。ロープのお陰で滑落をまぬがれたが、右足のワカンが灌木の枝に引っかかったのか、なかなか抜けない。2~3分もがいたが、右足がぬけないので仲間の助けを呼んだが、声が聞こえないのか誰も来てくれない。必死になって、もがきにもがいて、数分後ようやく、右足のワカンに引っかかっていた枝が折れたのか、右足が上がるようになり、ようやく雪面に這い上がった。息も切れ切れに、二人の待つビレー・ポイントに到着。
 4ピッチ目は、樹林の間の凸凹の多い狭い雪稜を登り、ようやく荷物を下ろせるような安定した広い稜線にでることが出来た。ワカンをはいたままでの雪と岩のミックスの岩稜登攀は、バランスの悪い私には、結構怖い疲れるピッチであった。
 僅か120~130mの長さの岩稜に時間をくい、その後のP768までのアップ・ダウンのラッセルは結構長く感じられた。P752あたりから、稜線の雪が風で吹き飛ばされたのか地肌が見えるところも現れ出した。もう4時時近くになってきたので、P752を越えて仏主峠との間のコルに幕営する事にした。今日も9時間余のアルバイトであった。

痩せ尾根
痩せ尾根の登攀

3月13日(木):風雨
起床/4:30 - CS/8:25 - P812/9:25 - 東屋/9:50~ 9:58 - 長老ヶ岳(916.9)/10:25 - 東屋/10:45(幕営)。
 夜半の午前1時頃より、雨が降り出し、風も吹き始めた。4時半に起床し、朝食をすま せて荷物もザックに入れて出発の準備をしたが、雨がいっこうに止まないので、テントの中で待機。ようやく雨が少し小降りになってきたので、テントを撤収して8時25分に出発した。P812を越えてコルにでたが、仏主峠の標識が雪に埋まっていたのか気がつかないままに通過。P812のピーク迄は、稜線の雪が強風で吹き飛んで地肌が現れている状態のところが多かった。P812から次のピークのP831に登り、そこから下ると、林道との合流点にある東屋に着いた。
 濃いガスで視界は50~60mくらいで、小雨が降り続いているが、長老ヶ岳に登る事にした。ザックを東屋に置いて、空荷で出発。30分で長老ヶ岳の頂上に到着したが、濃いガスで展望は全くなし。長老ヶ岳の下山途中から、又風雨がきつくなり出した。

長老ヶ岳頂上


 二人は今日中に下山したいとの意向であったが、東屋から下る林道の近畿自然歩道が 側壁からの雪で急斜面になった危険箇所が出てくる恐れもあり、風雨で視界の悪い中を 無理して下山するのは得策ではないと二人を説得。食料・燃料も十分残っているので、東屋の横に幕営して明日下山する事にした。テントを設営し終わった頃から、風雨は一層強くなった。風がゴウゴウと鳴り、バケツをひっくりかえしたような土砂降りの雨がテントをたたいた。
 昼食を済ませ、夕食も3時頃に済ませて、テントの中で濡れた寝袋に入って何することなく時間を過ごした。雨風はいっこうに弱まる様子はなく、小便にでるのも億劫になるような、うんざりする気象条件であった。

3月14日(金):風雪
起床/4:20 - 東屋CS/7:00 - 近畿自然歩道の林道 - 仏主村/9:30。
南丹町営バス 仏主/12:50 - JR和知駅/13:25着。JR 和知駅/13:33 - 京都駅/14:51。
 前日からの風雨は夜中になっても止まず。朝方になって4時ごろから、雨が小雪にかわりだした。相変わらず風も強く、ガスで視界も悪い。テントを撤収する時も、テントが吹き飛ばされないように、神経を使って撤収した。
 近畿自然歩道の林道は、3ヶ所ほど側壁からの雪で道が崩れていて、傾斜のきつい雪面を慎重にトラバースして通過した。標高450m位までおりてくると、積雪は信じられない程少なくなり、林道もアスファルトが顔を出している箇所が増えてきた。仏主の村落に9時半に到着。村落の雪は完全に消えてなくなっていた。

近畿自然歩道を下山


 仏主のバス停留所の待合で、粉雪の舞う寒い3時間余、バス待ちの長い時間を過ごした。大きなバスが時間通りやって来たが、仏主からの乗客は私達3人のみだった。

 3月11日と12日の二日の晴天のお陰で、なんとか頭巾山から長老ヶ岳への縦走を踏破することが出来たが、なかなか厳しいしんどい山行であった。登山届けを提出した南丹警察署がかなり心配しておられたので、帰宅後すぐに無事下山した旨の電話報告を入れておいた。

 京都北山の主たる稜線および京都・滋賀・福井の県境尾根の積雪期縦走の最後を、思い出に残る頭巾山から長老ヶ岳への会心の山行で飾る事が出来て、充実感でいっぱいである。堀内さん、岡部さんの二人の素晴らしい仲間に、心からの感謝を申し上げたい。

以上。